研究領域の現状 215
田 中 彰 治(助教) (1989 年 4 月 1 日着任)
A -1) 専門領域:非ベンゼン系芳香族化学,分子スケールエレクトロニクス
A -2) 研究課題:
a) 量子効果素子回路の単一分子内集積化法の開拓 b) 単一分子ワイヤの伝導特性の系統的解明 c) 巨大分子系の基板表面への精密設置法の開拓
A -3) 研究活動の概略と主な成果
a) 本研究では,「単一巨大分子骨格内に量子効果素子回路をまるごと集積化」するための逐次精密合成プロセスの開拓 を目指している。昨年度までに,単電荷トンネル素子回路の根幹パーツ群(トンネル/静電接合,クーロン島,ワイ ヤ/アンカー)の系統的整備を進めてきた。本年度は,新学術領域「分子アーキテクトニクス」におけるナノ半導体 工学チームとの議論を受けて,「抵抗」パーツの開発を始めた。「抵抗」の精密設計の重要性は,もっぱら「伝導性 の向上」を目指してきた分子素子分野では無視されてきた。しかし,ナノ電子回路の専門家とのネタ合わせから,実 働可能な量子効果素子回路を目指す上で「トンネル確率を自在に調整・設定」するための受動素子は必須であると 認識を改めた次第である。当然,前例は無く,最初のトライアルとして,単一障壁タイプと多段トンネル接合タイプ とについて,1nm 級のものを各種試作した。今後,これらを 10nm 長級の分子ワイヤ系に組み込み,その単一分子 伝導特性の評価から,「抵抗」の設計法を整備していく段取りである。
b) 電極/単一分子鎖/電極系における電荷輸送特性の解明と制御法の開拓を,阪大・夛田−山田 G,産総研・浅井 G らと実施している。本年度は,特に分子/電極接合部の軌道間カップリング強度について実験的知見を得るため, 単一分子接合系の熱起電力の分子鎖長依存性を検討した。ゼーベック係数(透過係数の微分に比例)の比較から, 分子/電極間カップリングはチオフェン8量体までは鎖長依存するが,それを超えるとほぼ一定になることが分かっ た。これより,「分子鎖自体の性質」の比較検討を行う場合,チオフェン8量体以上の分子鎖系で実施する必要があ るとの指針が得られる。なお,ゼーベック係数はいづれも正であり,最高被占軌道を通じた伝導であることも確かめ られた。また現在,非弾性トンネル分光法による検討も進めている。一方,発光中心や磁性中心を導入した機能性 分子ワイヤの電子特性を評価するための合成 / 計測研究を京大・田中(一)G と実施中である。
c) 機能集積化巨大分子系について,「基板の定位置に配置かつ固定化」するための方法論の開発,及び「基板上での 構造/物性」を実験的に解明するための研究を進めている。昨年度までに,横浜・市立大の横山 G との共同研究に より,エレクトロスプレー法を用いて 10nm 〜 120nm 長クラスの大型分子を平坦/清浄基板上に配置する手法を確 立した。今年度は,東大・西原 G との共同研究により,特にシリコン基板上への大型分子固定化法の検討を進めた。 そのために,ドナー性へテロ環ヨウ化物で分子末端を活性化したオリゴチオフェン類の新規開発を行った。この「末 端活性化オリゴチオフェン」は,パラジウム触媒により水素終端シリコン基板に接合可能である事が確認できた。こ れにより,巨大分子デバイス系を,微細加工技術で構築したシリコンナノ構造体に直結し,「バルク系とのインター フェース確保」や「駆動力の供給」を行う可能性が開けたものと考えている。
216 研究領域の現状 B -7) 学会および社会的活動
学会の組織委員等
分子研分子物質開発研究センター・特別シンポジウム「分子スケールエレクトロニクスにおける新規分子物質開発」主催 者 (1998).
応用物理学会・日本化学会合同シンポジウム「21世紀の分子エレクトロニクス研究の展望と課題—分子設計・合成・ デバイスからコンピュータへ—」日本化学会側準備・運営担当 (2000).
第12回日本MRS学術シンポジウム:セッション H「単一電子デバイス・マテリアルの開発最前線〜分子系・ナノ固体系 の単一電子デバイス〜」共同チェア (2000).
F irst International C onference on Molecular E lectronics and Bioelectronics 組織委員 (2001).
B -10) 競争的資金
科研費基盤研究 (C ), 「単一分子内多重トンネル接合系の精密構築法の開拓」, 田中彰治 (2007年 –2008年 ).
科研費基盤研究 (B), 「単電子/正孔トンネルデバイス回路の単一分子内集積化のための分子開発」, 田中彰治 (2010 年 –2012 年 ).
C ) 研究活動の課題と展望
当研究室では,世界に先駆け,10nm×10nm クラスの単一分子内単電荷トンネル素子回路の構築のための汎用巨大分子合成 法を整備してきた。現在,その実働を確認するための評価法の開発が急務となっている。東大・長谷川 G とのネタ合わせの 結果,独立駆動型多端子 ST M を用いて機能評価するためには,50nm×50nm 以上の分子サイズが必要との見積もりを受けた。 よって,その要請に対応可能な「超大型」の汎用分子構築ブロックの新規開発を進めている。